
年々、梅雨らしい梅雨ではなくなりつつあるとはいえ、不安定な空模様の日が多いこの時期。外出のイベントが立てにくいならいっそ、衣替えのついでにおうちライフをアップデートしてはどうだろう。仕事では日々「改善」をしているけれど、プライベートの「改善」まで手が回っていなかった、という人も、これらの本をきっかけにぜひ一歩、アクションを。

捨てる勇気100 小林弘幸著 宝島社
(1,430円)
勇気をもって捨てることで人生を輝かせる100のメソッド集。これを紹介するのが片づけやミニマリストのプロではなく、自律神経研究の第一人者とされる著者だから面白い。ここで捨てるのは身の回りの日用品、生活習慣、思考のクセ、食事の常識、人間関係と大きく5つに分類される。最初にとりかかるのは日用品だ。ファッションアイテムなら「1年間着倒した服は捨てる」「窮屈な細身の服は捨てる」「使いづらいバッグは捨てる」とかなり大胆。しかしそこにはちゃんと理由がある。選択というのは私達のストレスになる。散らかった部屋も、探しものも、使うかどうかわからないものも、窮屈な服も、全部私達の自律神経に負担をかけているのだ。その品物がまだ使えるかどうかとか、売ればいくらの価値があるかというのは「もの」主体の価値であって、私達の自律神経を主体に考えると随分見え方が変わってくる。生活習慣編では仕事の進め方、通勤の仕方、名刺の管理の仕方など、さまざまな提案が続く。なかには著者の提案する“捨てる行動”があまりにも大胆だと感じることもあるかもしれないが、ものは試し。「メンタルの問題をメンタルによって解決するのは難しい」と著者。物理的に何かを処分して情報処理の総量を変え、目に映る景色を変えたり、行動のスタイルや時間帯を変えたりすることによってメンタルの問題を解決するという手法は、気持ちがうまく動かないときにこそ大いに活用したい。

フィンランド発 幸せが見つかるライフスタイル ラウラ・コピロウ著 WAVE出版
(1,870円)
世界幸福度ランキングで8年連続第一位を獲得している国、フィンランド。この国の暮らし方には幸せの秘密が隠されているはず。フィンランドで育ち、日本で暮らす著者が、フィンランドの魅力を紹介するとともに、幸せにつながるマインドセットを提案するのが本書だ。フィンランドと言えば森と湖とコーヒーとサウナ、そして北欧家具のイメージもあるだろう。日本と同じ程度の面積の中に北海道よりやや多い人口の人々が暮らし、そこには300万個以上のサウナ、18万9000もの湖があるという。
日本人と気質の通じるところも多い。たとえばそれほど華やかなコミュニケーションを好まない控えめなキャラクター、あるいは「シス」(困難の中でもあきらめずがんばる前向きさ)という価値観など。一方で日本人にはない「合理性」がその随所に垣間見える。手料理信奉をもたない(冷凍を解凍しただけでも立派な手料理!)、仕事は早く切り上げ早く帰るほうが効率的、もらったギフトが気に入らなければ、贈り主からレシートを貰い、店頭で別のものに交換できるシステムがある、など! 著者のニュートラルで明るい語り口は、私達が何となく慣習的に、あるいは体面的に守っている風習を、見直してもいいかも知れないという気にさせてくれる。他国の「普通」のなかには、まだまだ私達の暮らしを心地よく変えるヒントが潜んでいるようだ。

月収 原田ひ香著 中央公論新社
(2,200円)
「いい暮らし」をしようと思ったら、ついて回るのがお金の問題。しかしお金はいくらあったら幸せなのだろう? 所有物が多ければ多いほど幸せとは限らないように、もしかしたらお金だって、あればあるだけ幸せとは言い切れないかも知れない。
本書は『三千円の使いかた』が大ベストセラーとなった著者の、シリーズ本とも言えるマネー小説。登場するのは「月収4万円の66歳」に「月収8万円の31歳」、「月収100万円の26歳」、「月収300万円の52歳」などさまざま。それぞれにその月収の理由があり、その月収のための働きがある。その月収から得る夢、目標、その月収を守るために失ったもの…。「お金では買えないものがある」のは疑うべくもない事実だが、お金というのはあまりにも明快な基準だからこそ、強いパワーで私達を誘惑する。ましてや「月収」というのは保有資産などと違い「1ヶ月の収入」であり、その意味では時間の豊かさや労働の価値とも深く関わってくるからやっかいだ。労働の対価としていくらのお金を手にし、そのお金とどう向き合うか。そこに幸せの価値観が反映されるからこそ、会社員だからといって、会社任せにしていてはいけないと感じる。
ちなみに本書は年金やインボイス制度、新NISA、不動産投資など、今どきのマネーキーワードがしっかりした取材に基づいて散りばめられているから、財テクの事例としても楽しめる。
ライタープロフィール

文/吉野ユリ子
1972年生まれ。企画制作会社・出版社を経てフリー。書評のほか、インタビュー、ライフスタイルなどをテーマにした編集・執筆、また企業や商品のブランディングライティングも行う。趣味はトライアスロン、朗読、物件探し。最近ピアノを習い始めた。