三菱のアート

2025.06.26

子どもでも分かる!家族で楽しめる!

夏の静嘉堂@丸の内で絵画をわくわく鑑賞

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大阪・関西万博で沸いた2025年の春から初夏。万博期間に開催された大阪市立美術館「日本国宝展」、京都国立博物館「日本、美のるつぼ」、奈良国立博物館「超 国宝」は、いずれも見応え十分な大型美術展としてさまざまなメディアで取り上げられた。これらの会場へ足を運べなかったとしても、今まで以上に美術鑑賞に興味を持ったという人も少なくないはず。
日本は稀に見る美術館天国だ。東京、京都、奈良、九州の国立博物館をはじめ、各都道府県や市町村による美術館や博物館、企業や個人コレクターの私設美術館まで、規模や内容もさまざま。そのうえ寺社が大切に守り続けてきた仏像や仏画、各種の宝物などを鑑賞する機会も多い。
7月5日(土)から9月23日(火・祝)の2か月半、東京・丸の内の静嘉堂文庫美術館では「絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ」という展覧会が開催される。「夏休み期間を含むため、お子さんにも興味をもって見ていただけるような展示を企画しました」と、担当学芸員の藤田紗樹さん。神や仏はなぜ描かれたのか。天皇や貴族のような高貴な人、そして伝説化された人物はどのように描かれたのか。絵画のなかでも難しそうなジャンルだが、展覧会へ出かける前の予習になる話をうかがった。

美術ファンでなくても子どもでも!ハードルをグッと下げた絵画展

崇拝や礼拝の対象として制作された仏画は、あるいは平安貴族など人物がたくさん登場するやまと絵は、何を描いているのか、何のために制作されたのか、それを理解するのはとても難しい(そもそも分からないことも多い)。ならば、絵の中の人は誰なのか、たくさんの人物が描かれている絵ではどこに注目して見ればいいのか、この絵は当時どのように使われたのかという視点で鑑賞してみたら――この「絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ」はそんな展覧会だという。

「古美術の絵画のなかで、神さまや仏さま、そして人の姿に注目した、絵画の入門展です。絵に描かれるような人物ですから、天皇や貴族、伝説となった特別な方々です」 媒体となる絹や紙、そして絵具も大変貴重だった時代、絵画は何かを伝えるため、あるいは記録に残しておかなくてはならない重要なことが描かれた。「この人は誰?」「何をしているところ?」「このポーズの意味は?」そういうことが分かると、絵画はもっと楽しく鑑賞できるのだという。

貴族の顔は〝コピペ〟でよし!?

屛風や絵巻に描かれた平安貴族の顔は、糸のように細い目と「く」の字のような鉤形の鼻をもつ無表情の下膨れの顔。これを「引目鉤鼻(ひきめかぎばな)」というが、判で押したように皆同じなのは「引目鉤鼻(ひきめかぎばな)で描かれているのは高貴な人」という記号だから。一方でお仕えの者など一般人は、目がクリッとしていたり垂れ目だったりと、それぞれに個性的で表情も豊かに描かれる。
「日本の古い絵画では位の高い人物を描くときにさまざまな約束事がありました。引目鉤鼻もそのひとつ。本展では絵画の見方のひとつとして、この点をクローズアップしています」

「住吉物語絵巻」(部分) 前期展示
桃山~江戸時代・16~17世紀 (公財)静嘉堂蔵

室内の奥にいる高貴な女性たちは引目鉤鼻で描かれている。

「駒競行幸絵巻」(部分)後期展示
鎌倉時代・13~14世紀 (公財)静嘉堂蔵

引目鉤鼻で描かれた黒い装束のふたりの男性は高貴な人物。表情や姿勢もビシッときまっている。おしゃべりに花を咲かせる男性たちの顔には個性が見られる。

分かるようで分からない仏画、よ~く見たらテーマパークだった!

平安時代に貴族層に篤く信仰された仏教だが、古来日本人が信じてきたのは八百万の神々。それと仏とどう折り合いをつけるのか――を解決したのが「春日宮曼荼羅」だ。なんと「仏は神さまの姿を借りてやって来た!」という、奇想天外にも思える発想で描かれている。

重要美術品「春日宮曼荼羅」後期展示
南北朝時代・14世紀 (公財)静嘉堂蔵

奈良の春日社に住まう十体の神さまから、マンガのふきだしのように雲が湧き上がっている。その上にいるのが、神さまの本来の姿とされた仏さま。最上部には一宮の神とその本地仏である釈迦如来・不空羂索観音菩薩(2説ある)、中央の二宮が薬師如来、その左右に三宮の地蔵菩薩、四宮の十一面観音と、尊格に準じて配置されている。全図では、仏さまたちの下に御蓋山(みかさやま)と春日山が、さらにその下には春日社の景観も見られる。

奈良の春日社に住まう十体の神さまから、マンガのふきだしのように雲が湧き上がっている。その上にいるのが、神さまの本来の姿とされた仏さま。最上部には一宮の神とその本地仏である釈迦如来・不空羂索観音菩薩(2説ある)、中央の二宮が薬師如来、その左右に三宮の地蔵菩薩、四宮の十一面観音と、尊格に準じて配置されている。全図では、仏さまたちの下に御蓋山(みかさやま)と春日山が、さらにその下には春日社の景観も見られる。

さらに面白く鑑賞できるのが「当麻曼荼羅」だ。中央には「あの世はこんなに美しく楽しいことがいっぱい!」と極楽浄土が描かれ、その周辺には漫画のコマ割りのように小さな絵が。ここには極楽へ行く方法などがストーリー仕立てで記されている。
春日明神が常陸国の鹿島から鹿に乗って御蓋山に飛来した、という伝説に基づいた「春日鹿曼荼羅」も興味深い。本来、神々の姿は直接的には見えない(見えなくてもそこにいる)ものなので描かない。「春日鹿曼荼羅」には神の姿が描かれていないが、鹿が背負った鏡の中に神の本来の姿である仏の絵が描かれている。これによって、神が鹿に乗ってやってきたということが暗示されているのだ。

「当麻曼荼羅」前期展示
鎌倉時代・14世紀 (公財)静嘉堂蔵

阿弥陀如来の住む西方極楽浄土の様子を描いた作品。極楽浄土の様子を具体的に想像することができる。この絵を見て「あそこへ行きたい!」と思わせることによって、見る人の信仰心を高めたとみられる。

重要美術品「春日鹿曼荼羅」前期展示
室町時代・15世紀 (公財)静嘉堂蔵

前述の「春日宮曼荼羅」にも御蓋山の頂上に神鹿が描かれているが、鏡には何も映っていない。この「春日鹿曼荼羅」の鏡には、春日の神の本来の姿である仏の姿が描かれている点に注目したい。

聖徳太子に藤原鎌足…神格化された人物はこう描かれた!

聖徳太子が誕生してから亡くなるまでの伝説的エピソードを4幅にわたって描いた「聖徳太子絵伝」はまるで『ウォーリーをさがせ!』だし、「大内図屛風」では最重要人物の天皇が竹の植え込みに隠れている。竜王に奪われた宝珠を取り返すため、壮大な長期計画を実行した藤原鎌足の物語は絵本『大織冠』に…。
伝説的な人物の絵画といっても決して難しくない。知識がなくても絵本のように楽しめる作品が多数展示されるのが、本展の大きな魅力なのだ。

重要文化財「聖徳太子絵伝」通期展示・展示替えあり
鎌倉時代・14世紀 (公財)静嘉堂蔵
※(右から)第一幅と第二幅は前期展示、第三幅と第四幅は後期展示。下の部分図は第一幅です。

皇太子の着衣には黄丹(おうに)と呼ばれる特別な色を用いる。用明天皇の子である太子は、画中で一貫して黄丹色(オレンジ色)の服を着た姿で描かれていて、どこに主人公がいるのかひと目で分かるようになっている。多くの伝承を持つ聖徳太子だが、2歳のときに東の方角を向いて両手を合わせて「南無仏(なむぶつ)」と唱えたとか、36人の言葉を同時に聞き取れた――といったエピソードが描かれている。

「大内図屛風」左隻 後期展示
江戸時代・17~18世紀 (公財)静嘉堂蔵

「承安五節絵」という絵巻物を屛風に写した左隻。承安年間(1171~1175年)に行われた高倉天皇の御代の五節会が描かれているが、4扇から6扇の上部の竹の植え込みに隠れている人物に注目したい。彼こそ高倉天皇なのだが、尊い神の姿は見てはいけないのと同様、天皇の姿を描くことが憚られたための策と思われる。

『大織冠』(部分)後期展示
江戸時代・17世紀 (公財)静嘉堂蔵

海底に棲む竜王に宝珠を奪われた藤原鎌足。「海の底なら海女さんだ!」と海女の女性と結婚し、子どもをもうけるなどして信頼関係を築いたのち、その妻に頼んで…と、何年にもわたる壮大な物語は「幸若舞」という舞の演目として人気を博し、そのストーリーは絵画や屛風に描かれたり、歌舞伎や浄瑠璃の題材にもなった。今回展示されるのは縦12㎝ほどの珍しい小さな絵本。

本展の展示作品のなかで唯一の国宝である「禅機図断簡 智常禅師図」も、想像を掻き立てられる水墨画。もとは巻物だったものが分断されたと考えられ、静嘉堂のほか、東京国立博物館、荏原 畠山美術館、アーティゾン美術館、根津美術館に所蔵され、いずれも国宝だ。樹下に座る人物はニヤリとした表情で何かを指差し、手を合わせている人物は必死の様子? ふたりのおじさんは何をしているのか…想像しながら見るのも楽しい。

国宝 因陀羅筆・楚石梵琦題詩「禅機図断簡 智常禅師図」前期展示
中国 元時代・14世紀

智常禅師(中国唐時代の高僧)に、張水部という人物が教えを乞うといった場面を描く。

2か月半にわたって開催される「絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ」では、内容をわかりやすく伝える仕掛けや工夫が満載! 国宝1点に重要文化財が6点展示される名品揃いの展覧会でもある。子ども向けの分かりやすい解説やパネル展示なども(大人も子ども向け解説で十分楽しめる)。前期と後期でほぼすべてが展示替えされるので、二度三度と足を運べば、ちょっとわかりにくい日本や中国の古い絵画がぐんと身近に感じられそうだ。

美術館データ

静嘉堂文庫 絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ

「絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ」

Introduction to Painting:
A Guide to the Wonderful World of Gods, Buddhas, and Humans


会場:静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内/東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1階)


会期:2025年7月5日(土)~9月23日(火・祝)
※前・後期でほぼすべての作品を展示替え、前期は8月11日(月・祝)まで、後期は8月13日(水)から

会期中休館日:月曜日(ただし、7月21日、8月11日、9月15日、9月22日は開館)、7月22日(火)、8月12日(火)、9月16日(火)


開館時間:10時~17時
第4水曜日は20時閉館、9月19日(金)と9月20日(土)は19時閉館、いずれも入館は閉館の30分前まで


入館料:一般1,500円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※毎週木曜日はトークフリーデー(気兼ねなく会話をしながら鑑賞できます)


【関連イベント/ギャラリートーク】

日時:7月10日(木)12時30分~13時、7月23日(水)18時30分~19時、8月21日(木)12時30分~13時
集合場所:静嘉堂@丸の内ホワイエ
※参加無料、ただし当日の入館券が必要


【関連イベント/親子で楽しむギャラリートーク】

日時:8月3日(日)13時~13時30分
集合場所:静嘉堂@丸の内ホワイエ
※参加無料、ただし当日の入館券が必要


【関連企画/三菱一号館美術館&静嘉堂文庫美術館をめぐろう!チケット】
7月19日(土)~8月31日(日)の期間中に使用できる2館共通券を、400円お得な3,600円で販売。両館でノベルティのプレゼントも。


問い合わせ:☏ 050・5541・8600(ハローダイヤル)

ホームページ https://www.seikado.or.jp/

X(旧Twitter) @seikadomuseum

instagram @seikado_bunko_artmuseum

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<会期中の2025年9月23日(火・祝)まで>

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